ボビンレースは、ヨーロッパ全土で手工業として大いに発展しました。しかし、産業革命により登場した機械製造ボビンレースが手工業ボビンレースを代替できるようになった段階で、価格競争に敗れた手工業ボビンレースは衰退し、現在は、趣味でおこなわれるか、あるいは、観光みやげ品の商業生産が、生産地を中国などに移して、残るばかりになっています。
ボビンレースに限らず、全ての手工業生産が、機械製造生産との価格競争を経て衰退しました。
機械製造ボビンレースが普及する前、産業革命以前の時代には、人々は農林水産業や手工業で生活を営んでいました。人々は生活に必要なものを自分で作るのが基本でした。個々人が大抵のことはできたし、そのために必要な知恵は両親あるいは地域社会から子供へ受け継がれました。
自分で作れないものは購入しましたが、そのために必要なお金は農林水産物、あるいは、その加工品・手工業品といった、自分で作ったものを売ることによって得ていました。そして、多くの人にとって作ることができない、ボビンレースなどの手工芸品は、憧憬とともに、高額で取引されていました。当時、手工業は、農林水産業と並び、経済的に自立する手段の一つでした。
産業革命により状況は一変し、以降は、機械製造ボビンレースが、手工業ボビンレースを圧倒します。
機械製造ボビンレースは、生産能力を増やすために、手工業ボビンレース時代のギルドのように、養成所を作り後進のボビンレース職人を育てると言った手間がかかりません。金融の力で短期間のうちに増加させることができました。そして、拡大すると常に製造原価が下がることから、小売価格低下による販売増加は、生産能力の急速な拡大を支え続けました。
価格低下と人口増加などにより新規需要が拡大しているうちはそれでも良かったのですが、一渡り普及して更新需要が中心になると、以降は生産能力をもてあますことになります。結果、更新需要を刺激するなどして、過剰消費を促すしかなくなります。
概して、機械製造は、供給能力過大の段階に入ると、広告費増大などに伴う品質低下が起こります。本来の寿命よりも短いサイクルでの買い替えを無理にうながすために、新デザインの先進性を強調したり、新技術の利便性を過剰に訴えたりします。修繕費用の高すぎる価格設定も、新品への買い替えをうながす方策の一環でしょう。
短期間での買い替えは、使い捨て目的には合致していますが、製品寿命まで大切に使う習慣には結びつきにくく、「所有する」という意識に与えた影響も見逃せません。また、新品という形でいつでも同じものが手に入る機械製造品は、機能的、製品寿命的には問題が無くとも、(新品でも)使用を開始したら、劣化が始まるというように、劣化という意識に影響を与えました。
「新品」でなければ(消費者の手に渡ったら)「劣化」という思考法は、機能が落ちて更新が必要となるというのとは異なるものです。「もったいない」、「足るを知る」という伝統的な価値観からは、違和感があるでしょう。
産業革命以降の機械製造業の攻勢に対して、ヨーロッパ手工業は分業による専門化・量産の道を選びました。
もちろん数量的には勝負にならないので、手工業のコスト削減には限界があり、産業としてはほぼ壊滅しました。
現在では、ヨーロッパ土産として、手ごろな価格の手工業レースが販売されています。手工業品( hand-made )という説明は受けるものの、もちろんヨーロッパ人の労働単価に見合うはずが無く、多くは中国などで制作されたものです。これは、ヨーロッパのレースメーカーから仕事を奪って、労働コストの安い中国などへ生産移管したと言う見方もできるでしょう。
分業化にしても海外生産にしても、労働をコストと考える見方が基にあり、一所懸命(一生懸命の由来)に縁があった仕事に精励する伝統的な職業観を受け止めきれない気がします。
手工業が機械製造業に挑戦するに当たって、ヨーロッパでの対応を参考にしつつ、文化的な特徴を考慮に入れることも重要と思います。
◎ 機械製造業のライフサイクル
(作成中・続く)
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