ボビンレースは、12 - 13 世紀より、文献に記述が見られ、特に、15 - 16 世紀のイタリア、あるいは、フランダース地方で装飾品としての展開をみせたとされています。
その美しさは高い評価を受け、「 糸の宝石 」と呼ばれ、欧州の王族・貴族階級の間で高額にて取引されました。ポンパドール夫人( 1721 - 1764
)の英国最新鋭軍艦とハンカチを交換した事案などが有名です。17 - 18 世紀には庶民階級の服飾にも普及してゆきます。
ボビンレースは、手工業として確立し、ヨーロッパ各地で生産され、その技術、美しさを競いました。産地間の競争は厳しいもので、各種技法は生産者ごとに門外不出の秘密として伝承されました。また、その競争においては、デザイン他につき、宮廷の趣味の動向を把握することも重要だったと言われています。
1789 年のフランス革命と同時期の産業革命は、西ヨーロッパの手工業レース産業に大変な打撃を与えました。機械レース産業の安価な製品との競争により、手工業レース産業は衰退し、その影響は、今日まで続いています。一方、ロシアでは
1921 年のロシア革命以降も、ロシア共産党政権の産業保護政策の下、手工業製品の輸出が継続していました。
このように地域ごとに特色ある展開をみせたボビンレースは、個々にその地域名などで呼ばれるようになります。そして、その地域ごとに展開したボビンレースは、その用いる技法を基準にして分類されています。
まず織り始めと織り終わりの技法で、大きく二分します。
◎連続糸レースと不連続糸レース
織り始めと織り終わりが場所的に一致するレースは、織り始めと織り終わりの技法が共通します。これらは、結果的に一筆書きで織り、最初と最後をつないで織り終わる形になるので、連続糸レースと呼ばれます。
これに対して、デュシェスレース、ロザリンレース、ホニトンレースなどは、織り始めと織り終わりが一致せず、織り終わりの技法もそれぞれ独特です。これらは、不連続糸レースと呼ばれます。
不連続糸レースは、連続糸レースにより織られた部分の集合体となりますが、それぞれの部分で、糸の色を変えたり、太さを変えたりすることができるので、表現の幅が広がります。
連続糸レースは、グランドと表現するモチーフとの関係で、四分できます。
◎テープレース、トーションレース、ブレイドレース、ネットグランドレース
テープレースは、文字通りテープを織ることでテーマを表現します。テープでモチーフの輪郭や内部を織ります。初期には、テープとテープの間を結ぶことはありませんでしたが、次第にペアや四つ組で結ぶようになりました。
トーションレース、ブレイドレース、ネットグランドレースは、面を織ってゆくレースです。歴史的には、このグランドとモチーフを併せて織ってゆくレースは、トーションレースから始まりました。
トーションレースは、グランドを様々に表現することに特徴があります。ローズグランド、スカンジナビアグランドなど様々なグランドが工夫されました。しかし、レースメーカーの探求はこれにとどまりませんでした。
グランドとモチーフのコントラストを上げることでよりモチーフを際立たせ、レースらしくモチーフだけが浮き上がって見える効果を追求したのが、ブレイドレースであり、ネットグランドレースです。
ネットグランドレースは、1 ペアのみで( ネット )グランドを織ることで、最も繊細で、最もテーマが浮き上がった形で作品を織ることができます。ネットグランドは、文字通りレース部分がもっとも透けていますし、テーマを目を詰んで織ることにより、コントラストを際立たせ、繊細に、浮き上がった形でテーマを表現できます。
ブレイドレースは、2 ペアの四つ組でグランドを織ります。2 ペアが必要なピコとタリーをグランドの装飾に用いることが多く、ネットグランドレースよりも生産性が良い(
はかが行く )ので、ネットグランドレースが機械製造レースとの競争で疲弊する中、良く織られました。ベッドフォードシャーレースがイギリスで完成を見たのは、19
世紀半ばです。
多くの地域のデザインを特色とした連続糸レースは、上記の四分類に大別できます。
フランダースレース、バンシュレース、トュナーレースは、ネットグランドレースに分類できますし、
クリュニーレース、ベッドフォードシャーレースは、ブレイドレースに、
ロシアレース、ボログダレースはテープレースに分類できます。
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